A Cat Daydream

猫との日々、書評、映画評、プログラミング、etc…

垣根涼介『ワイルド・ソウル』感想

垣根涼介の小説を初めて読んだ。大藪春彦賞を受賞したらしいが、ハードボイルド小説向けにそんな特別な賞があるとは知らなかった。今回ハードカバーのものを読んだが、2段組で500ページ以上ある大長編を一週間足らず、最後は駆け足で読了した。

あらすじ

忌まわしい過去を振り切ろうと、男達はそれぞれの別天地(ワイルド・ソウル)を目指す-。東京を縦断しながら、フルスロットルで加速する史上最強のクライム・エンターテインメント。幻冬舎創立9周年記念特別作品。

(「MARC」データベースより)

感想

ブラジルを始めとした南米諸国への移民政策が人口増加や貧困への対策としての”棄民政策”の側面があったことは寡聞にして知らなかった。不毛な土地にあてがわれた衛藤一家とその仲間たちの受難は苛烈を極め、重苦しい。しかし読みにくいかというとそうではなくて、衛藤の過酷で悲惨な経験を通じて読者自身も日本政府への義憤を煽られる。前半最後にやっと主人公のケイが出てくるが、その登場の仕方はこれまでの小説や映画にないパターンで鮮烈。

中盤に入りブラジルの鬱蒼としたジャングルから、現在の東京のアスファルト・ジャングルに場所を移していよいよ復讐譚が始まる。ケイとコロンビアの麻薬カルテルに育てられた松尾が主役となる。

前半の鬱屈とした雰囲気から一転、中盤以降は躍動感に溢れアップテンポで、シネマティックな描写が多い。首都高を300キロ以上で疾走するスポーツカー、高速道路の谷間に燦然と屹立する権力の象徴のようなガラス張りの外務省のビル、火を噴くマシンガン、砕け散るガラス・・・などなど、映画化したらさぞ画面に映えることだろう。

復讐譚ではあるものの、暗さはなく一級のエンターテイメントとなっている。政府のような大きな相手にどうやって復讐するのか興味津々だったが、その方法が陰湿なものじゃなかったので読後感も爽やか。特に終始明るいケイの影のような存在だった松尾が最後に大活躍して、自分の人生を切り開いて去っていくのが痛快だった。

ワイルド・ソウル 上 (新潮文庫)

ワイルド・ソウル 上 (新潮文庫)

 

 

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』感想

 

映画 ミッション インポッシブル フォールアウト 映画 ポスター 42x30cm MISSION:IMPOSSIBLE - FALLOUT 2018 JJエイブラムス トム クルーズ サイモン ペッグ ヴィング レイムス レベッカ ファーガソン [並行輸入品]

トムのトムによるトムのためのアクション映画『ミッション・インポッシブル』第6弾フォールアウトの感想。

あらすじ

盗まれた3つのプルトニウムの回収に成功したIMFのエージェント、イーサン・ハント。
だが、仲間を救出する際にプルトニウムを再び奪われてしまい、同時核爆発を未然に防ぐ新たなミッションが下される。
手掛かりは“ジョン・ラーク"という男の名前と、 彼が接触するホワイト・ウィドウ"と呼ばれる謎めいた女の存在のみ。
世界に刻一刻と迫る<終末の危機>。
チームの仲間や愛する人までもが危険にさらされ、幾つもの<フォールアウト(予期せぬ余波)>がイーサン・ハントに降りかかる・・・!

Amazon内容紹介)

シリーズ比較

acatdaydream.hatenadiary.jp

感想 

最初はイーサンとヘンリー・カヴィル演じるCIAからの監視役、ウォーカーが行動を共にしてバディ・ムービーか?と思わせたが、やはり最後はトム・クルーズの独壇場だった。

序盤の見せ場であるトイレでの格闘シーンは今までになく激しく、まるでジェイソン・ボーンのようにスピード感溢れる。この時戦っていた中国系の俳優が気になって調べてみたら、『フォースの覚醒』のTR-8Rだった。スタントマンとして『スカイフォール』など、多くの作品にも出ているらしい。

f:id:towtter:20190213212647j:plain

Traitor!の中の人

第6弾ともなるとストーリーも趣向を凝らしているというか複雑で、まず出てくる組織が多すぎてややこしい。CIA、Mi6、シンジケート、その残党で分派の”アポなんとか”などなど、誰が敵味方か理解しづらく一見さんお断りな感じである。ヒロインも前回からのレベッカ・ファーガソン演じるイルサはいいとして、元奥さんまで出てきてイーサンもどっちつかず。奥さん出す必要ある?

『ゴースト・プロトコル』では楽しかったスパイガジェットは少なく、顔をスキャンして変装マスクを3次元プリンターのようなもので作成するアタッシュケースくらい。あとは原点回帰なのか、万能な変装マスクに頼りがち。恒例のイーサンのアクロバティックな潜入ミッションもなく、カーチェイスなど大味なアクションが多めだった。ラストのヘリでのドックファイトはトップガンを彷彿とさせるが、少し長く感じた。

トム・クルーズジャッキー・チェンばりに自身でスタントをこなして、撮影中に骨折までしたそうだ。役者根性には恐れ入るが、だからといって映画が面白くなるかというと・・・疑問。まぁ、十分面白いのだが、CGバリバリのアクション映画に毒されてるのかもしれない。

すでにパート7、8の公開が決定しているらしい。前作ローグ・ネイションと今作はシリーズの中ではシリアス路線だと思うが、次回作はもう少しシンプルなストーリーにして面白ガジェットたくさん出して、ベンジーとのコメディパートも増やしてくれると嬉しいなぁ。 頼むよ、トム!

 

『日の名残り』感想

ノーベル賞受賞をきっかけにカズオ・イシグロを知って、『わたしを離さないで』を読んでいいなと思った。今回、映像化作品を初めて観てみた。

あらすじ

1958年。ダーリントン邸の老執事スティーブンスのもとに、以前共に屋敷で働いていた女性ミス・ケントンから一通の手紙が届く。懐かしさに駆られる彼の胸に20年前の思い出が蘇る。当時、主人に対して常に忠実なスティーブンスと勝気なケントンは仕事上の対立を繰り返していた。二人には互いへの思慕の情が少しずつ芽生えていたが、仕事を最優先するスティーブンスがそれに気づくはずもなかった。そんな中、ケントンに結婚話が持ち上がる。それを知ったスティーブンスは激しく動揺するが・・・。

(出典:Amazon Prime Video)

感想

ノーベル賞受賞をきっかけにカズオ・イシグロに興味を持って観てみた人は多いと思うが、この映画は印象と違ったという感想を持つ人が多いのではないか。原作は一度Audibleで読了というか聴いたのだが、執事のスティーブンスの一人称で「・・・ではありますまいか」みたいな古めかしい独特の語り口調で進行していくところが新鮮に感じる。ナレーターの田村誠一の声も意外とハマっていた。老執事役には若い声だが、女中役のミス・ケントンも演じなければいけないから妥当なところだろう。原作は笑えるシーンも多く、ミス・ケントンとのいざこざもオーディオだとリズム感があって軽妙な雰囲気を醸し出している。

これに対して映画は重苦しい。主演のスティーブンス役アンソニー・ホプキンスは品格のある有能な執事という割には落ち着きがない。ミス・ケントン役のエマ・トンプソンは明るく、茶目っ気を出してちょっかいを出すが、それを受けるスティーブンスの方は空気が読めない感じで余裕がない。アンソニー・ホプキンスはどうもレクター博士の印象が強すぎて、コメディには向いていないようだ。父親が重要な会議中に亡くなるシーンは無表情過ぎて少し怖い。バックグラウンドに不穏な音楽が絶えず流れているのも雰囲気を暗くしている。

f:id:towtter:20190209142109j:plain

原作と異なっている点がいくつかある。ダーリントンホールの現在の主人は原作ではアメリカ人富豪のファラデー氏だが、映画では会議中に挑発的な意見を述べるアメリカ人議員ルイスがそのまま邸宅のオーナーとなっている。また原作だとスティーブンスが主人のファラデーを喜ばせるためにアメリカンジョークを必死に考えるシーンがあって笑えるのだが、映画ではばっさりカットされている。最後にこの作品で象徴的なセリフ『夕方が一日でいい時間』を語るのは原作では旅先で知り合った老人だが、映画ではミス・ケントンになっていた。多分に演出のための変更だろうが、微妙なニュアンスは変わってくる。

脇役で若い執事と駆け落ちする女中は見たことあると思ったら、『サラコナークロニクルズ』のサラ・コナー役のレナ・ヘディだった。若い頃はキーラ・ナイトレイに似ている。またアメリカ人議員は事故を起こす前のクリストファー・リーヴが出ている。

f:id:towtter:20190209142441p:plain

サラ・コナーの人

結末も解釈が異なっているように感じた。原作ではスティーブンスが滅私奉公に明け暮れ仕事人間だったこれまでを振り返り、自分の人生を無駄だったのではないかという考えもよぎるが、そうではない、これから暮れていく夕方の人生を前向きに生きようと決意してダーリントンホールへ帰っていく。映画では邸に舞い込んだ鳥が飛び去って、ダーリントンホールを俯瞰していくところで終わる。最後まで執事の人生は籠の鳥のようなものだと暗喩しているようで、それだとテーマが変わるというか、カズオ・イシグロの言いたいことと違うような気がした。原作の持つ魅力のおかげで執事を主人公にした地味な物語にも関わらず、ストーリー展開こそ面白いが、洒落っ気が薄れ重苦しさばかりが目立ったのが残念だ。

 

 

柚月裕子『孤狼の血』感想

映画化で話題になっていたので、原作を読んでみた。

あらすじ

昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上とコンビを組むことに。飢えた狼のごとく強引に違法捜査を繰り返す大上に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて金融会社社員失踪事件を皮切りに、暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か。血湧き肉躍る、男たちの闘いがはじまる。

(「BOOK」データベースより)

感想

仁義なき戦い』の功罪だろうが、広島という土地と任侠ものはよく似合う。柚月裕子という人は初めて知ったが、女性作家で血なまぐさいヤクザ抗争を描いたのに驚く。

柚月裕子横山秀夫を尊敬しているそうで、どことなく小説のスタイルも似通っている。出てくる登場人物がみんな人情に厚く、仕事に熱く、季節も夏で本当に暑苦しい。ただ横山秀夫ほどくどくなく、ややマイルドにした感じ。

失踪事件の捜査からヤクザ抗争に発展するストーリー展開は筆致が冴えていて、グイグイ読ませる。大上のヤクザへの対処、チンピラの追い込み方も実に悪どくて逆に痛快に感じる。

とはいっても部下の日岡の目を通して捜査過程が描かれるためか、きわどいシーンは直接的には描かれず、ヤクザものにありがちなドギツさを期待すると少し物足りない。また大上が一人でヤクザと話を付けるのは、スーパーマン過ぎる嫌いがある。

日岡に関しては作中ずっと狂言回しだが、最後に意外な役割だったことが判明して驚く。この役割を生かしてもう少し大上と絡めてドラマにして欲しかった。日岡を主人公にした続編『凶犬の眼』はすでに出ているらしい。こちらも読んでみたいが、まずは映画を観よう。大上は役所広司が演じているが、小説のイメージだとイマイチしっくりこない。五十子会の会長が石橋蓮司なのはピッタリ。外道なヤクザが本当に似合う。(褒め言葉)

孤狼の血 (角川文庫)

孤狼の血 (角川文庫)

 

 

遊行寺節分祭

江ノ島の節分祭はネット情報では殺気立っているとのことで、代わりに近所の遊行寺の節分祭に行ってみた。

f:id:towtter:20190203183849j:plain

f:id:towtter:20190203184038j:plain

いつもは閑散としている遊行寺でこれだけ人出があるのは初めて見た。

豆まきは13時30分と15時の2回。15時の回で15分くらい遅れたがまだ始まってなかった。住職らしき人が話をしていたようだが、誰も聞いていなかった。

15時30分くらいからやっと豆まきが始まったが、せいぜい5分程度で終了。

殺伐とした奪い合いはなかったが、前の方に陣取っていないとキャッチは難しそう。

まいている豆の中には景品の引換券があるらしく、大人の方が夢中になっていた。

f:id:towtter:20190203184700j:plain

豆を投げる方が楽しそう

遊行寺で一番えらいお坊さんも豆まきに参加していた。遊行七十四代の真円上人でなんと御年百歳。元気に”福はうち”を唱和していた。豆をまく人は年男・年女であれば誰でも応募できるらしい。一度でいいから何かをバラまく役をやってみたいものだ。

豆まきの後、散歩がてらに遊行寺と繋がっている長生院へ。照手姫の墓の周りの木が少し開花していた。立春を感じるうららかな陽気の休日だった。

f:id:towtter:20190204201302j:plain

照手姫の墓

 

日々是好猫:江ノ島猫

今年はじめての江ノ島。今日は天気が良く、弁天橋から富士山がよく見えた。三匹の猫と出会った。

一匹目は江島神社の階段で目の前をすばやく走り去っていって写真撮れず。後二匹は帰り道、児玉神社の境内の中で日向ぼっこしているところ。

f:id:towtter:20190202195639j:plain

毛並みが良い

f:id:towtter:20190202195705j:plain

首にお守り付けてる。神社猫?

ランチはイルキャンティのつもりだったが、あまりに混んでいたので向かいのGARBへ。

f:id:towtter:20190203183331j:plain

薪をインテリアに効果的に使っている。テラス席は温室のようにビニールハウスにしてその中にコタツが出してあった。冬の時期少しでも有効活用しようと、工夫しているようだ。

f:id:towtter:20190202200631j:plain

ピザとパスタは美味しかったが、ランチセットのサラダとスープは正直かなり改善の必要あり。

ランチ後、湘南モノレールで大船へ。湘南江の島の駅舎は昨年末改装でさすがにきれいだったけど、中はホームの5階までまだ何もテナントが入ってなかった。初めて乗ったがモノレール自体は意外とスピードが速く、揺れも結構大きい。平日は通勤・通学で混むらしいが、この日はガラガラ。高架で住宅街を走り抜けていくのは新鮮だったが、江ノ電と比べると観光の交通手段としてはイマイチなんだろうな。

みぃちゃんも江ノ島行きたい?

f:id:towtter:20190203183631j:plain

ノーサンキューにゃ

 

ピエール・ルメートル『死のドレスを花婿に』感想

f:id:towtter:20190130191423j:plain

ルメートルは『その女アレックス』で知った。これが非常に面白かったので、”アレックスの原点”という煽り文句の『死のドレスを花婿に』を読んでみた。

あらすじ

悪夢に苦しめられるのが怖いから、眠らない。何でも忘れてしまうから、行動を逐一メモにとる。それでも眠ってしまうと、死者たちが訪れる。ソフィーの人生は、死と血、涙ばかりだ。でも、ほんの一年前まで、彼女は有能なキャリアウーマンだった。破滅への道は、ちょっとしたことから始った。そしていつしか、ソフィーのまわりに死体が転がりはじめたのだった。でも彼女には、天性の知能と強い生命力が備わっていたのだ。ある偽装によって自ら道を切り開いていくや、ついには、自分を取り巻く恐るべき真実に突き当たっていくのであった…歪んだ行為への、正しい対応が生むカタルシスヒッチコックも驚くであろう斬新な四部構成で読む、脅威のサイコサスペンス。

(「BOOK」データベースより)

感想

何故か記憶障害を抱えているソフィー。主人公が記憶障害を抱えているドラマとしては、クリストファー・ノーランの『メメント』を思い起こさせる。10分間しか記憶を保てない奇病を持つ主人公が全身に入れ墨を彫って重要なことを忘れないようにする姿がトリッキーだった。本作の主人公ソフィーも大切なことを忘れないようにメモするが、そのメモをなくして途方に暮れる。メモをなくすばかりか、メモを取ったことすら忘れる奇病にかかっている当方としては主人公の不安な心情はよく分かる。

一部は主人公が記憶障害が起こしたまま殺人が起こり終始不穏な空気で進むが、二部で記憶障害の謎が明かされこれが非常にキモい。二部までは不安感や怖いものみたさで読者を引っ張るが、残念ながら種明かしをしてからは新たな殺人も起きずハラハラ感が薄れてしまう。結末も真犯人の裁かれ方がスカッとせず、尻切れトンボな感じ。ネットのレビューを見ると、本作はイヤミスのカテゴリーとある。イヤミスとは”イヤ”な”ミス”テリーの略のこと。今回初めて知ったが、これはもう一般的な略語なのか?確かにイヤな気分にはなるが、アレックスとかケッチャムの胸糞小説『隣の家の少女』に比べればまだまだライト。あとがきにも著者が前作( 悲しみのイレーヌ)が残酷な場面が多すぎるという批評をもらって、少し本作では残酷加減を抑えた、ような記述があった。しかしそう言われては『悲しみのイレーヌ』を読むしかないな。

 

死のドレスを花婿に (文春文庫)

死のドレスを花婿に (文春文庫)